750SSマッハIVの心臓を一から組み立てる。第1回(全5回)
今回はバラバラ状態のH2エンジンの組み立てをご紹介します。H2乗りの方は自身の愛車の心臓部がどうなっているのか知っておくためにも参考になると思います。
また、今回紹介させて頂く手順は要点をまとめたもので「全て」ではございません。作業を進めて行く上でそのエンジンごとに異なる不具合や経年変化があります。それらをその都度チェック・対処をしながら進めて行きますので、この記事を読んで「このくらいなら自分で出来そう。よしっ!やってみよう!」と思った方、相当な「知識」「労力」「時間」が必要になりますので覚悟して取り組んで下さい。
「まっ、こんなものでいいや」で作業を進めて行くと痛い目に合いますよ。
■洗浄
上下クランクケース・シリンダー・ヘッド・カバー類をまとめて洗浄していきます。
今回のH2エンジンはウェットブラストを施してあります。エンジン内部はもちろん細かな隙間・ネジ穴に至るまで、残ったウェットブラストのメディアを完全に除去していきます。
特にボルト穴。ここはメディアやごみ、古い液体パッキンのたまり場所。一つ一つ完璧に除去していきましょう。
写真で使用している工具は雌ネジを洗浄するタップのような工具。この工具を閉めこんでネジ山の状態やネジ穴のチェックをしていきます。ブラストのメディアが残っている場合は「ガリッ」と言う感触があるのでその感覚が無くなるまで洗浄していきます。
組付け時にビスを閉めこんでいったら途中から硬くなり無理やりねじ込む、そんな場面を想像しながら作業すると手を抜けません。
次は「シリンダー」「ヘッド」「ケースカバー」の洗浄です。まずは面出し。使うのは平面の出た鉄板と金属研磨剤(バルブコンパウンド等)。
鉄板にオイルで溶いた研磨剤を塗ります。ちなみに弊社でこの作業に使用する鉄板は定期的にフライス盤で面研しています。
合わせ面になる部分は今までの修理経歴の「傷」「バリ」「経年変形」があります。チェックも兼ねて面を平面と擦り合せ面出し、洗浄を行っていきます。
ただしこの作業は「面研」の代わりになるものではありません。手作業で擦り過ぎると逆に平面の出ていない面になってしまいます。バルブコンパウンドの研磨力は意外に強いので擦り過ぎに注意して下さい。
ただ擦るだけのようですが「砥ぐ」に近い感覚で作業しています。終わったら念入りに洗浄。研磨剤が残っていると大変な事になります。最後は洗浄液を新品に変えて濯ぎ、念入りにエアーブローをして洗浄終了です。
■組み上げ作業開始
さ、いよいよ組付け作業です。大まかな流れはアッパーケースにリビルド済みのクランクシャフト及びミッションのギアシャフト類を組み込み、最後にロアケースをかぶせます。
まずはアッパーケース側に組み込んでいきます。
※ミッションの各パーツは初期潤滑をしてから組み付けましょう。当店ではエルフのギアオイル(ミッションオイル)を使用してます。
■シフトドラム&シフトフォーク
シフトフォークを通しながら、シフトドラムをアッパーケースに挿入します。この時にシフトフォークの順番に注意してください。
シフトドラムの位置決めをしているチェンジドラムポジショニングプレートを取り付けます。
チェンジドラムポジショニングプレートを取り付けているビス(皿ビス)の方に緩み止めのポンチを打つ
ポンチはこんな感じで打ちます。
シフトドラムに組み付けるシフトフォークの順番は画像の通りです。ガイドピンをシフトドラムの溝に合わせ締め付け、ロックワッシャーの爪を折りまわり止めをして終了になります。くれぐれも初期潤滑を忘れずに。
■ミッション
アッパークランクケースにミッションをセットしていきます。まずはミッションの位置決めをしているセットリングの設置。2ヵ所あります。
このセットリングを忘れるとミッションのギアの位置関係がずれ、ギアの「二重噛み」が起こります。例えば3速と4速に同時に入るような状態です。もちろん回転はロックされますから、走行中に「二重噛み」起こる事を考えると恐ろしいです。
ミッションの「インプットシャフト」「アウトプットシャフト」に組み込まれている各ギアは、初期潤滑させて組み込みますが、各シャフトを支持しているベアリングのアウターレース外周は油分を拭き取ってから組み込みます。
「シフトフォークの位置」「セットリング」「両端のドエルピンの位置」に気をつけてミッションシャフトをセット。
上側が「インプットシャフト」下側が「アウトプットシャフト」。設置したら各シャフトの回転をチェック。シフトドラムを回転させてシフトフォークの動きも必ずチェックしましょう。この時点で回転が渋い時は「セットリング」と「ドエルピン」をチェック。それでも改善されない場合はミッションベアリングの圧入不良やミッションの各ギア間に組み込まれているシムの誤組や厚みの問題が考えられます。
■キックシャフト
キックシャフトの設置です。
キックペダルリターンスプリングの「アッパーケース」「ロアケース」に挟まれる部分と、
リターンスプリングの突起がアッパーケースの「溝」に入っている事に注意して、
ストッパーの爪が画像のような位置に来るように設置します。
■クランクシャフト
クランクシャフトにも1カ所セットリングが組み込まれます。必ず忘れずに設置!!
クランクシャフトに組み込まれているクランクシールの外周にはごくわずかに液体ガスケットを塗布。クランクベアリングの外周は脱脂をしてクランクシャフトをアッパーケースに設置します。
■ケースを閉じる
いよいよケース内の作業も最終段階です。液体パッキン等を使用していきますので手際よく作業を進めます。まずはプッシュロッドガイドの設置。ドエルピンと位置決めの穴に注意。
ケースに挟まれて固定されるオイルシール類を組み込んでいきます。
・クランクシャフトシール 右
・クランクシャフトシール 左
・アウトプットシャフトオイルシール
(ドライブスプロケット裏オイルシール)
・アウトプットシャフトOリング
・プッシュロッドオイルシール
これらのオイルシールには画像のように内側グリスポケットにシリコングリスを塗布します。
外周には液体パッキンを薄く塗布。厚塗りには注意!!
アウトプットシャフトオイルシール及びOリング。Oリングをピックなどで奥まで丁寧に押し込んだ後に、
スペーサーを組み込みます。
続いてクラッチプッシュロッドオイルシール。
クランクシャフトオイルシール 左側。
クランクシャフトオイルシール 右側。
オイルシールの設置完了。
次にロアケースのケース合わせ面に液体ガスケットを薄く塗布。厚塗りに注意!!
ケーススタッドボルトのネジ部にスレッドコンパウンドを塗布。ケース合わせ面のノックピンの有無をチェックしてロアケースをアッパーケースにかぶせます。
いきなりナットを締め込まずにゴムハンマー等で軽く上から叩き、なるべく合わせ面を密着させます。
そして仮締め。ナットを締め付けます。
ナットは3回か4回に分けて締めますが、その度にクランクケースに挟まれているオイルシールが飛び出してきていないかチェック。飛び出してきているようであればプラハン等で叩いてオイルシールを押し込みます。
最後はナットをトルクレンチで規定トルクで締め付けます。その後(30分後くらい)、再度締め付けトルクをチェックして完成です。
次回は腰下回りのパーツを組み上げて行きます。