#38.クランクオイルシール抜け。KH編

クランクオイルシール抜けを検証する。


2サイクルエンジンにとってクランクケース内の1次圧縮の気密を保つ重要なクランクオイルシール。このクランクオイルシールの不良によっておこる不調は非常に多いです。
多くはクランクオイルシールの劣化が主な原因ですが、稀にですが「クランクオイルシールが抜け出てしまう」不具合があります。
画像はポイント側(車体に跨って左側)のクランクオイルシールが抜けた状態です。通常はエンジンケースとフラットに収まっているべきオイルシールが黄色の枠の分飛び出ています。この症状はクランクシールの劣化が原因のみならず新品のクランクオイルシールの場合でも起り得ます。
 「ん?急にエンジン音がうるさくなったぞ」そんな感じに気付くことがあり、通常走行中でも十分あり得る現象です。ではなぜこんな現象が起こるのか?また、どう対処するか?検証していきます。


■クランクオイルシール抜けが起こる理由。

クランクオイルシールの抜けが起きた時、多くの人が「オイルシールが経年劣化で痩せてしまった」と考えます。もちろん考えられる原因ですが、新品のオイルシールを使用してエンジンをオーバーホールしているのにも関わらず抜けるのはなぜ?液体パッキンの塗布量が少なかったから?
 
あくまで私の個人的な見解ですが「クランクケースの経年変化」が原因ではないかと考えています。ご存知のとおりエンジンケースは、エンジンが掛かっているときは非常に高温になり、エンジンを止めると外気温まで下がります。この熱による「膨張」と「収縮」を長年繰り返してきました。またクランクシャフトにかかる振動も受け続けてきました。そのことで、多少なりともクランクケースは歪み。クランクオイルシールを上下から押さえる部分も経年による材質の変形のため当初の穴径より若干大きくなってしまった。と考えています。
 
クランクオイルシールは溝や爪で固定するわけではなく、エンジンケースの上部と下部で挟み込むだけで設置してあるので、1/100mm径が広がってしまっても、しっかりと挟み込めません。実はこの現象はエンジンオーバーホールがきっかけで起こる場合が非常に多いです。その理由は、長年エンジンケースを開けていない場合はオイルシールとエンジンケースの密着は意外に強く、多少の変形でもオイルシールが抜けるまでは至りません。
 
しかしエンジンオーバーホールなどでエンジンケースを開けて綺麗に洗浄後にオイルシールを交換するとエンジンケースの変形つまり「ゆるい」状態がクランクシールが抜けるという症状によって露呈する事になってしまうと考えています。

微小に広がった穴径。目視ではわかりません。


■クランクオイルシール抜けで起こる症状。

では、オーバーホール時に穴径が広がっている事はわからないのか?正直その判断はプロでも非常に難しいです。目視ではもちろんわかりませんし、組み上がった時でも違和感はありません。何度かクランクシャフトを組み込まずにクランクケースを仮組し、オイルシール組込部、クランクベアリング部を計測した事がありますが、新品(新車)時との比較が今となっては出来ませんので計測数値が正しいのかどうかは不明です。結局のところ実際に走行してみて症状がでるまで気付けません。
 
では、クランクオイルシールの抜けが起きるとどんな症状が起きるか?
 
◎オイルポンプ側の場合
「ミッションオイルのクランクケース内侵入」「ミッションオイル量の急激な減少」「またがって右エンジンのプラグかぶりによる不調」等になります。ひどい場合はオイルシールがプライマリーギアと接触して削られ、その削りかすがクラッチケース内でミッションオイルとかき回されることによって、ミッションオイルが真っ黒に汚れます。
 
◎ポイント側の場合
「エンジン音の異常」ポイントカバーを外すとカバー内に「燃え残りエンジンオイル」と「ガソリンが混入」、マグネットローターとクランクシールの接触による「ゴムの削りカスの黒い汚れ」などです。
 
もし、あなたのバイクがエンジンが掛かりにくく、パワー不足を感じたら各部をチェックしてみてください。

正常な状態のポイント側クランクオイルシール

正常な状態のオイルポンプ側クランクオイルシール


■対処方法。

ではどのように対処するか?エンジンケースの穴径を戻すのは非常に困難です。また、抜けて出ているオイルシールを叩いて戻しても、また出てくるだけで意味がありません。これは新品オイルシールを使用しても同じです。
当店では一回エンジンを分解し、クランクオイルシールを設置する際に、通常なら液体ガスケットを塗布するところを、接着剤で代用します。対処療法的な修理ですが効果はあります。気を付けている事は接着剤を塗る量です。一度抜けているので多量に塗りたいところですが、クランクベアリングの支持も考え出来るだけ少量にとどめておけるようにしております。非常に旧いバイクですので、リペアパーツも少なく、長く乗るためには工夫も必要です。
もし、あなたの愛車で疑わしい症状が出ている場合は、オイルポンプカバー・ポイントカバーを外してクランクオイルシールを確認してみましょう。

薄く接着剤を塗布

しっかり固定して

ケースをしっかり閉じて終了です。

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